禁じられた森
病気で親友を亡くした夜、僕は禁じられた森の中に入った。
元々両親のいなかった僕らは家族同然だったんだ。
「ごめんね、先にいなくなってしまうけど」
「そんなこと言うなよ!治してまた一緒に遊ぼうよ」
親友は笑顔でうなずき、そのままそっと息を引き取った。一生分の涙が彼の握りしめたハンカチに零れた。
難病。
信じられない数の病が彼を襲った。病名は複雑で僕には覚えることすらできないものだった。
僕は先生の白衣を掴んで、彼を助けてあげて欲しいと何度も泣いて頼んだ。先生は目を閉じ、首を横にふるだけだった。治せない病もある。そんなことは僕らも知っていた。
随分前に病院内で元気な彼と遊んでいる時に聞いた噂話があった。この病院の裏口から抜けた先の森で願いが叶うというものだった。ただし、何人も挑戦したけれど帰ってきた者はいないとか。
僕は親友の顔に白いハンカチをかけ直し、走り出す。
虫の音だけが聞こえる禁じられた森の中で一人さまよった。
すると、森の奥に行列が見えた。一目でこの世のものではないことが分かるほど、異形な姿をしている。僕は震えてその場を動けなくなった。
黄泉へと続く小径を魍魎たちが歩いている。願いを叶えるには彼らと話すしかないようだ。
手招きされ、僕はその隊に加わった。
「小僧、お前はどんな魍魎になるつもりだ?俺たちに会っちまったんだ。引き返すことは許されない」
鬼が僕にそう囁いた。
そうか、ここで彼らを目にすると自分も魍魎にされるということか。願いが叶うなんて世の中そんなに甘くはない。
僕は自然と覚悟を決めた。親友のいないこの世にすでに未練などなかった。
「病気を喰らうよ。この世の病、全てを僕の腹に収めてやるんだ!」
僕は鬼に叫んだ。
病を食べる魍魎になれるなら願いは半分叶ったようなものだ。もう僕の親友ように悲しむ人を見なくてすむ。もう半分の願いは叶いそうもない。僕がここで死ねばまた会えるかな。
「お前は良い奴だ」
そう言うと、魍魎どもは何もせず笑って消えた。僕はここで死ぬはずだった命を拾った。
親友の分までこの足で歩いて行こう。満月に誓った夜だった。
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