凄腕の花火師
凄腕の花火師は腕を組み、導火線を見つめる。
ついにこの日が来た。
彼は船の上で独り呟いた。真夏の太陽を反射した湖面が白く光っている。伝説を刻む日にふさわしい天気だと感じた。
真昼間の河川敷に集められた数千人が彼の船を見つめている。屋台のビールや焼きそばを片手にざわつく観衆。
彼は史上初の『昼の花火大会』を開催したのだ。
「今に息を飲ませてやる」
頭に巻いた手拭いが風を受けてたなびく。その動きが止まると同時に花火師は素早い動きで火を放った。
打ち上がった花火は昼間の光にかき消され、軌道の痕跡を残さない。
次の瞬間。
上空で盛大に弾ける花火に観客は呆然とした。真夏の空に牡丹型の闇が広がったのだ。
しばしの沈黙から怒号のように湧き上がる歓声。
人々は昼と夜が混ざり合う漆黒の光に酔いしれた。