手のひら
少女は生まれつき不思議な力を持っていた。どんな傷でも少女がそこに手を当てると翌日には消えていた。
「ありがとう」
癒えた人々はみんな少女の頭を撫でてそう呟く。それでも少女は笑わなかった。
街角で見つけた瀕死の仔犬に手を当てる。
翼の折れた鳥に手を当てる。
少女はとにかく目に付いた弱き者に寄り添った。まるでそれが宿命であるかのように、他の遊びには目もくれず手を当て続けた。
物心ついた時。
少女はもう何年も部屋から出ない父の傷をようやく理解した。今まで頭や身体、どこに手を当てても治らなかった父の病。
布団に包まり震える父の胸にそっと手を当てる。
翌朝。
スーツ姿で出かける父を見て、少女は初めて微笑んだ。
父もそんな少女を数年ぶりに抱き締めた。