世界の境界線
懐かしい匂いのする本のページをめくる。指先から紙が離れて、また新しい世界が開く。
1ページ、1ページが僕にとっての冒険。父が子供の頃に熱中した気持ちが世代を超えて僕に伝わった。
背もたれにしている樹木は父が生まれる遥か昔からこの世界を見つめてきただろう。本のように一瞬で世界を変えることはできないけれど、樹木は確実にその目で激変する世界を楽しんできたはずだ。
プロローグが終わる頃、どこかで雷鳴が聞こえた。本に栞を挟み、迷信だと思いながらもおヘソを隠す。
そうすると心が自然と凪いだ。
物語の世界観と現実の風景が近いせいで、今見ている世界がそのどちらか曖昧に感じた。父がこの場所でこの本を読んでいた理由がよく分かる。
閃光と同時に背中に熱さを感じ、眩い光が一瞬にして消えた。まぶたの裏に焼き付く朧げな光を残して、そのまま世界は暗転した。
さっきまで物語の世界の住人だった僕は、こんな終わり方も悪くないと一人呟いた。