夜市
静かな森で人魂が淡く青白い光で揺れている。怪鳥の囀りがさらに夜を深めた。
ここは夜市。
そう、絶対に立ち入ってはいけない場所だ。
何かと引き換えに、なんでも手に入れられる場所。僕はランタンを片手にここまでさまよってきた。
いつの間にか乾いた涙の跡が分からなくなるくらい、汗をかいていた。
姉を救いたい。幼い頃からずっと僕の面倒を見てくれた唯一の家族を。
しばらく夜市を歩くと、三つ目の蛙が砂時計を売っているのが目に飛び込んだ。
『寿命屋』
壊れかけの看板にそう書いてあった。
「ここだ」
「なんだ坊主。命を買うのか?高いぞ」
「あぁ。僕が出せるものならなんでも出すよ」
三つ目の蛙は「こいつは気に入った」と嗤った。
迷いはなかった。
僕は両目の視力を失い、姉の寿命を買った。これでいいんだ。
夜市から下界に戻されると、懐かしい花の香りがした。姉さんのとても好きな花。
光は失ったけれど、心に灯った希望に僕は嬉しくなった。