ファスナー
真夏の日差しが照り付ける灼熱の中、限られた視界でテーマパーク内を走り回っていた。
アスファルトの絨毯が蜃気楼のような煙を吐く。
朦朧とする意識の中で、子ども達の歓声に何度も救われた。
テーマパークの着ぐるみ。孤独と背中合わせに幸せが充満する空間。そう、このどこにでもある着ぐるみの中こそが自分の居場所だ。
子どもたちに囲まれる人気者もファスナーを下ろせばただの人間。
ロッカールームで途端に無気力が襲ってくる。だから俺は着ぐるみの中でしか生きられない。
子どもの笑顔があればそれだけで良い。
娘を遊園地の事故で亡くした時、もうとっくに人間のファスナーは下ろしたんだ。
今も娘を探し続け、テーマパークを必死に走り回る。
ファスナーが壊れてしまうその日まで、この着ぐるみの中で懐かしい娘との時を感じていたかった。