一輪の青い花
一人の花屋が世界から煙草をなくすなんて誰が想像しただろう?
老いた男は花の香りの研究に一生を費やした。別に煙草が憎かったわけじゃない。
ただ、自分のくわえ煙草で孫娘に火傷をさせてしまった心の傷をずっと癒したいと思っていた。
煙草がなくなっても孫娘の傷が癒える訳ではないが、不器用な男はそうすることでしか自分の心の隙間を埋める方法を持ち合わせていなかった。
ある朝、ついに男は完成させた。
輝くような一輪の青い花。咲いた瞬間に辺り一面を魅惑の香りに包み込む。
美しいその花は嗅ぐものを虜にした。
やがて人々は一輪の青い花を電車や車に携帯するようになり、街中がその花で溢れた。
それはそれですごい光景だったが、少なくとも煙に苦しむ者は誰一人居なくなった。
男はその花束を持ち、透き通る朝日を背に鼻歌を歌いながら孫娘に会いにいく準備をしていた。