消失病
消失病。
それは国家に指定された難病の中で、1億人に1人という最も重い後天性の病だ。
令和後半に罹患者が国内で確認され始め、瞬く間に危険な病気だと認知された。
消失病は身体の成長に連れて、徐々に皮膚を含めた細胞が透明になっていくものだ。最後には人として存在するのに、誰からも目視されなくなる孤独な病。
夕日を見ながら病気があっても構わないとこれまで共に歩んでくれた彼女を横目に最後の時を感じていた。
右手が透けて、夕日のオレンジが身体に直接染みる。
「ごめんな。今までありがと。消えたらオレのことは忘れてくれよ」
「そんなの絶対に無理。見えなくなるだけで、生きているならそばに居てよ」
「それはダメだ。お前にはちゃんとした人生を歩んで欲しいんだ」
「なんで…。なんでよりによってあなたに病が…」
最後に二人で流した涙が透明に輝いた。